入院闘病記(閉鎖病棟) PR

入院闘病記(閉鎖病棟) 早朝のトイレ掃除 第18話 

僕は完全に、眠気が吹き飛んでしまった。

腕時計を見ると、午前五時を回っていた。

僕は足早に自分の部屋に戻り、布団の中に潜り込んだ。

周りを見渡すと、まだ皆、深い眠りの底だ。

朝焼けが閉鎖病棟の窓から、容赦なく入り込んでくる。

僕は目を閉じて気を静め、先ほどの小川さんとの、刺激的な会話のやり取りを、思い起こした。

その時である!

廊下の先のトイレの方から、

「チクショウ!」

「コンチクショウ!」

という、叫び声が聞こえて来た。

僕は声の主が誰なのか、すぐに分かった。

麻生一郎さんだ。

腕時計を確認する。

午前五時半。

麻生一郎……。

目つきが悪く、ガリガリに痩せた、六十五才の小悪党。

毎朝五時起きを日課とし、常に雑用を探し求めて、うろうろしている。

この人が変人であることは、第一印象ですぐに分かった。

人間というのは、人相でどういう人間かが、大体分かってしまうものだ。

僕は入院以来、麻生さんには近づかない様にしてきた。

しかし、今朝は小川さんと二人きりで、話せた高揚感からか、単なる好奇心からか、奇声の聞こえるトイレに、行ってみることにした。

薄暗い廊下を抜け、左手にあるトイレに入る。

麻生さんが一生懸命、ゴミ箱の中身を、袋に移し替えていた。

僕は、明るく元気に声を掛けた。

「麻生さん、毎朝早いですね!お疲れ様です!」

「なんだ、ひでまるか。今朝は早いな。トイレ掃除は、今俺がやってるから、手出すんじゃあ無いぞ!それと、緑茶の機械は、六時にならないと動かないぞ!」

「はい。はい」

何を隠そう麻生さん、仕事(雑用)と新聞と、緑茶が命である。

それを取ろうものなら、鬼の形相で襲い掛かってくる。

僕は、麻生さんが嫌いだった。

顔が嫌いだった。

体格が嫌いだった。

仕草が嫌いだった。

全てが嫌いだった。

こういう変人とは、関わり合いにならないのが一番である。

僕は、早々にトイレを後にした。

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