三階閉鎖病棟の食堂の隅に、一台の自動販売機が置かれている。
赤茶色の錆びた、その大きな四角い箱は、もう何十年もそこに置き捨てられたかのように、静かに立っていた。
僕たちはその自動販売機で、よく缶コーヒーを買って飲んだ。
缶コーヒーは、僕にとっての生命線だった。
缶コーヒーを飲んで、カフェインを体内に摂取することにより、意識が覚醒され、気分が高揚して来る。
僕は完全に、カフェイン中毒になっていた。
どうやらそれは、僕だけでは無いようだった。
皆、とりつかれたように、自動販売機で缶コーヒーを、買っては飲んでいた。
皆、缶コーヒーを飲んで、ハイになっていた。
僕は、朝、昼、夕と、一本ずつ缶コーヒーを飲み、計画的にカフェインを体内に摂取していた。
皆、缶コーヒーにはまっていた。
皆、缶コーヒーにとりつかれていた。
皆、缶コーヒーに頼っていた。
僕は人目を忍んで、缶コーヒーを買った。
何故なら、買っている所を皆にバレると、蟻が砂糖に群がる様に、
「一口ちょうだい!一口ちょうだい!」
と、皆が寄ってくるからだ。
油断大敵である。
ハイエナたちに、狙われたら最後である。
僕の一番のお気に入りは、「ジョージア マックスコーヒー」だ。
疲れた時に超お勧めなのが、このコーヒーだ。
このコーヒーは、練乳と牛乳の合わせ技を使って、異次元の甘さを演出している。
一口飲んで、
「甘い!」
と、なるはず。
疲れた時って体は、甘いものを欲するものだ。
僕の中では疲れたらマックスコーヒー、という方程式が成り立っている。
うむ!
一口で缶コーヒーと言っても、底知れぬ奥深さがある。